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依存と友情って紙一重。
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あぁ、理不尽にも程がある。
山崎は叩き付けられた楽譜を見ながら溜め息をついた。
その溜め息すら気に入らなかったのか、マスター…土方は山崎も叩きつける。
痛いです、と掠れた声で言えば土方はなら痛覚を無くしてやろう、とパソコンを叩く。
カタカタカタ、とそれだけの音だけで山崎の痛覚は全く反応を示さなくなるのだ。
すぅ、と痛覚が無くなると、土方はそれを確認し、もう一度山崎を殴った。
痛覚も無しにいきなりけられたものだから、山崎のチップはびっくりして一度機能を停止させる。
「…おい、寝るにはまだ早いだろ。」
学習能力を供えたボーカロイドは、ビクリと体を震わせた。
そのまま無理矢理に体を起こす。
設定のおかげで痛みは全く無いが、コードが一本イカれたのか右足が動かない。
しかし、土方はそれに気がつきつつも立て、と冷たく呟く。
やはり、右足は動かない。
しかし、立ち上がらなければならない。
机に捕まり、無理矢理に体を起こすと土方に胸倉を掴まれる。
そのために起き上がったんじゃ無いのになぁ、と山崎が考えていると、いきなり土方は笑い出した。
「俺の書いた歌はそんなに嫌いか、山崎。」
山崎、というのはこのボーカロイドの前の持ち主だ。
その前は、沖田だった。
沖田が死に、山崎が失踪し、今このボーカロイドは土方なはずだ。
しかし、このボーカロイドは土方に「山崎」と呼ばれている。
どうもこの土方の歴代の恋人の元に自分はいたはずだが、そんな事は知ったこっちゃないのだ。
「沖田ミツバ」は、温かい歌を書く人だった。
何かを包み込むような、表すなら、母親の子守歌のような。
そんな歌をボーカロイドに歌わせ続けた。
彼女が病に倒れた時、一番側に居なければならなかったのは土方だったはずなのに、その場に居たのはボーカロイドだった。
最後に、とうしろうさんをよろしく、と言って、彼女は空へ旅立った。
ボーカロイドが土方に始めて会ったのはその葬式だ。
泣くに泣けないその男に話しかけられた。
ミツバは幸せだったか、と。
ボーカロイドははい、きっと幸せでした、と模範回答を述べた。
それに満足したのか土方は帰宅していった。
その後、破棄されるはずのボーカロイドを拾ったのが「山崎退」だった。
悲しい歌が、とても得意だった。
聞いていて切なくなるような、胸がきゅーっと締め付けられるような歌が多かった。
そしてそれを歌わせている山崎の顔が、一番切なかった。
しかしいつの日が、そんな歌が少なくなる。
そして、恋人だと紹介されたのは男で、なおかつ会った事があった。
土方は気まずい顔をしていたが、ボーカロイドは全く気にして無いように振る舞った。
それが、ボーカロイドとしての模範回答だからだ。
この頃、ボーカロイドはしん、と呼ばれていた。
むかし死んでしまった猫の名前でごめんね、と山崎は笑っていた。
しかしその名前は、弟の名前だったとボーカロイドは知っている。
ミツバが言っていた、可哀相な双子の片割れだと。
そんな中、山崎は失踪した。
しんのしんが呼んでる、と呟いて家から居なくなり、そのまま帰って来なかった。
あぁ、また独りぼっちか、とボーカロイドが思った時、家に土方が来る。
お前に、もう俺の恋人は不幸にさせない。
とかブツブツ呟いてボーカロイドを家まで連れて行く。
そしてボーカロイドは、「山崎退」と呼ばれるようになった。
この土方と言う男の歌は、ロックが多い。
力強い、男の歌う歌。
中性的な山崎の声ではどうしても出ない音域がある。
沖田も、山崎もそこを考えて歌を作っていた。
死んでしまったそうごが歌えるように、引き離されたしんのしんが歌えるように。
しかし、土方の歌には愛情が無い。
奪われた物を取り返す、復讐の音色しか乗せない。
そんな歌を、この愛情しか知らないボーカロイドが歌える訳が無いのだ。
その事に気がつかない土方は、歌えない山崎を延々と殴り続ける。
最初に無くなったのは嗅覚だ。
鼻が折れて、自然とものの香りが解らなくなる。
次は視覚だ。
俺以外を見る目なんかいらないだろ、と言われ、気がついたら何も見えなくなっていた。
味覚なんか元々ないに等しい。
この家に来てから山崎は何一つ口に入れていない。
もちろんボーカロイドだから食べなくても平気なのだが。
そして、今日。
山崎の痛覚は無くなった。
あと残っているのは土方の声を聞く耳と、土方の歌を歌う声だけである。
だけど、もう持たないのかも知れない、と山崎は気がついていた。
声も枯れて来た(一週間休み無しに歌ってたから)。
耳も遠くなる(食べなくても大丈夫だが、食べないと歌う事以外出来なくなる)。
胸倉を掴んでいた土方が、ゆっくりとその手を離す。
見ると、その瞳には涙が溜まっていた。
「お前は、俺を置いて行かないよな、お前は、俺を一人にしないよな。」
そんなの、あんたが会いに行かなかったのが悪い。
そんなの、あんたが引き止めなかったのが悪い。
その口を開く前に、山崎のチップはとうとう動きを止めた。


貴方が愛していたのは、僕ですが?俺ですか?私ですか?




いや、最近ボーカロイドにハマったので(笑)
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